Vivy -Fluorite Eye’s Song- Vivy -Fluorite Eye’s Song-

――私の使命は、歌でみんなを幸せにすること ――私の使命は、歌でみんなを幸せにすること

SPECIAL

座談会
2021.06.30

『Vivy -Fluorite Eye's Song-』座談会

シリーズ構成・脚本:長月達平 梅原英司
■制作スタッフと併走した旅のゴール
――『Vivy』の放送が終了しました。現在の率直な気持ちを教えてください。
長月 関わった期間が長かった分、無事にヴィヴィの旅の最後までたどり着けたことにとても達成感があります。

梅原 2016年の年末からスタートして、足かけ4年半ですからね。僕たちも企画を生み出す苦労がありましたが、作品に関わったすべてのスタッフにとっても長い道のりだったと思います。最高の形で完成を迎えられ、本当に感謝の気持ちしかありません。

長月 シナリオを書き上げた後はもう、エザキ(シンペイ)監督をはじめとするスタッフ陣にお任せすることしかできないのですが、心だけは一緒になって走っていたつもりです。全員でゴールテープを切れたことが何よりも嬉しいですね。
――視聴者の方々からの反響も含めて、あらためて作品全体を振り返っていかがですか?
長月 当時はまだオリジナルアニメのシリーズ構成に最初から関わった経験がなかったので、シナリオ作業は試行錯誤の連続でした。次回の引きとなるクリフハンガーの要素を盛り込んだり、2話・3話構成のオムニバス形式で新キャラクターを登場させたり、突然何十年も時間を飛ばしたり……。そういったこちらの狙いは、視聴者のみなさんにも好意的に受け入れてもらえたのではないかと感じています。

梅原 そうですね。『Vivy』はSF作品ではありますが、複雑な設定を見せるというよりは、キャラクターの関係性やドラマを楽しんでもらえる作品にしたいと、最初の段階から話し合っていました。そのためヴィヴィとマツモトの掛け合いや、姉妹機のシスターズたちのドラマについて多くの反響をいただけたことは嬉しかったですね。
――6月30日にBlu-ray&DVD第1巻がリリースされました。 お二人が手がけたドラマCDやオーディオコメンタリーなど特典も盛りだくさんですね。
梅原 ドラマCDは本編では触れられなかった、キャラクターのバックグラウンドを描く書き下ろしで、同名のキャラクターソングとセットで各巻に収録されています。

長月 キャラソンとドラマCDがセットになっている点には注目してほしいですね。普通キャラソンは、主題歌や劇中歌とは違い本編では流れません。自分はそれが少しもったいない気がしていて「せっかく曲を作るのなら、本編とリンクする機会があればいいのに」とつねづね思っていたんです。それは高橋(祐馬)プロデューサーも同じだったようで、「キャラクターソングに関連したシナリオをドラマCDにするのはどうでしょう?」と提案してくださいました。その形式なら、なぜこのキャラクターが歌うのか、どんな気持ちで歌うのかといった背景を物語に乗せて伝えられます。

梅原 曲にまつわるシナリオを書き下ろすのは大変でしたが、やれることはすべてやろうと。そもそも『Vivy』は、アニメのために原案小説を書いてしまうような作品ですしね(笑)。

長月 そうなんですよね。曲と作品をより深く関連づけられるいい形式だと思うのですが、時間がかかり過ぎるという点ではあまりおすすめできません(笑)。

梅原 ちなみにOPテーマ「Sing My Pleasure」のシングルにも、同じようにカップリング曲のオーディオドラマを収録しているので、気になった方はそちらも合わせて聴いてみてもらえると嬉しいですね。
■感情が芽生える前のヴィヴィの声
――ここからはエピソードごとに順に振り返っていければと思うのですが、まず連続で放送された1話・2話はいかがですか?
長月 1話・2話は、最終エピソードと並んで最も時間がかかりましたね。当初から「飛行機が墜落するラストシーンまで観てもらえれば、今後の展開も気にしてもらえるだろう」という確信はあったのですが、どうやっても1話分の尺には収まらなくて……。

梅原 ヴィヴィの使命やマツモトとの出会い、人類とAIの間で勃発する戦争を止めるためのシンギュラリティ計画など、語らなければいけない要素が多すぎるんですよね。

長月 どうすればうまくまとまるかは、二人でアイデアを出し合いましたね。例えば1話はすでにヴィヴィがシンギュラリティ計画を遂行しているアクション的な見せ場から始めて、世界観の説明は2話に回すという案も出ました。しかしその流れでは(霧島)モモカとの関係性が描けず、ラストの悲劇の重みが生まれない。いろいろと悩んでいたところ、最終的には1時間枠での連続放送という形を採ることができました。高橋プロデューサーが調整に奔走してくださったおかげですが、『Vivy』が多くの方に注目してもらえたのは連続放送できたことの功績が大きかったと思いますよ。

梅原 1話と2話が別々に放送されていたら、印象がまるで違っていたでしょうね。それにもちろん、制作スタッフの力を抜きには語れません。僕らのシナリオの上に、エザキ(シンペイ)監督をはじめ現場のスタッフの方々のアイデアがふんだんに盛り込まれていて、完成映像を観ては僕らのイメージを超える演出に驚きの連続でした。
――1話・2話を再度観直すにあたって、注目してほしいポイントはありますか?
長月 最終話の後であれば、まだ感情が芽生えていないヴィヴィの表現には驚くと思いますよ。というのも、1話のヴィヴィはまだすごく“ロボロボしい”んです(笑)。それは種﨑(敦美)さんが、エピソードが進むごとに少しずつ感情を出すという芝居を組み立ててくれたからで、そのおかげで、話数を追うごとに「心をこめて歌う」ことを理解していくヴィヴィの成長過程が自然と感じ取れるんですよね。

梅原 それで言うと、細部の演出で面白かったのは、まだ感情が乏しいヴィヴィでも、気持ちがあふれてしまう瞬間があるところですね。1話でヴィヴィのステージに観客が来なかったことに触れたマツモトが「表情も言葉も固いあなたのステージに人は寄り付かない」と意地悪く言うと、ヴィヴィは「ステージ上では笑顔です」と返す。その次のカットが、ヴィヴィの歩く足元のアップで、カツンという足音が挟まるのですが、その鋭い音によって、ヴィヴィは自分でも気付かないうちに怒りを覚えていることが伝わってくるんです。これはシナリオにはない、エザキ監督が絵コンテで追加した演出です。まだ感情を発露できないという制約の中で、ヴィヴィの心を巧みに表現していて流石だなと思いました。
■「悔しいなぁ」の意図
――3話と4話は宇宙ホテル・サンライズを舞台に、エステラやエリザベスが登場します。
長月 このエピソードは、実は小説からシナリオに起こすときに大幅な変更を加えています。小説では「エステラが前オーナーを殺したのではないか?」というミステリー要素を前面に出していたのですが、アニメでは謎解きを見せるだけの尺の余裕はありません。そのためヴィヴィは、3話のラストでエステラの美しい歌を聴くことで、エステラは前オーナーの死とは関わっていないことを確信する、という展開にしました。

梅原 その流れは当初、不安がありましたよね。AIでありながらロジカルではない、エモーショナルな判断を下すことが、果たして『Vivy』という作品に相応しい展開なのだろうかと。

長月 そこでアニメ版のヴィヴィは、「心をこめて歌う」という使命に対して、小説版以上に強いこだわりを抱いていることにしました。彼女にとって心をこめて歌うことは何よりも優先されるもので、歌声に心が感じられるエステラの存在は、正しさに結びついている。自分が書くうえで「この方向性なら小説からシナリオを組み上げられる」という確信が持てたのが、この3話のラストでした。
――エステラたちが人類を守るため、宇宙ホテルと運命を共にする4話のラストも話題を呼びました。
長月 嬉しかったのは、視聴者のみなさんも、あの結末を前向きに捉えてくださっていたことです。エステラは最終的に機能を停止してしまうわけなので、一見すると悲劇的な結末のように見えかねない。でもそう感じさせないのは、梅原さんの書いた、ヴィヴィの「悔しいなぁ」というセリフのおかげだと思います。あの言葉によって、エステラの選択はヴィヴィにとっては悲しいものではなくて悔しい、つまりAIにとっては羨ましいものだということがきちんと伝わってくれたなと。

梅原 AIは使命を果たせるのなら、例え自分の存在が消えてしまっても幸せなのだ、ということですよね。深く考えずに自然と出てきたセリフなのですが、その意図が伝わるようにはできたのかなと。

長月 梅原さんのセンスが光る、悔しい一言でしたね(笑)。
■銃を見せるべきなのか否か
――5話と6話は海上無人プラント・メタルフロートが舞台です。人間とAIのカップルである冴木(タツヤ)博士とグレイスをめぐるエピソードですが、こちらも衝撃的な結末が話題を呼びました。
長月 初めにお断りしておくと、最後の冴木の自殺については視聴者の方から「長月、やりやがったな!」という反響が多かったですが、5話・6話のシナリオは梅原さんですからね(笑)。梅原さんはこういう救いのない悲劇的展開がものすごく得意なんです。

梅原 いやいや、冴木が自殺するというアイデア自体は長月さんからの提案じゃないですか(笑)。それにラストをあれだけショッキングなシーンにできたのは、映像面での後押しもとても大きくて、絵コンテ・演出を手がけた久保(雄介)さんをはじめとした制作スタッフの力の賜物です。

長月 実は当初、冴木は死なない予定だったんですよ。でも7話でヴィヴィが別人格へと変化するためには、6話のラストに彼女がコンフリクトを起こすような事件、つまり冴木とグレイスの物語に何か悲劇的な結末が必要だろうと。

梅原 冴木が自ら銃で命を絶つシーンをどう見せるかも、シナリオ会議で議論が紛糾しましたね。例えば冴木が銃を後ろ手に持っていることを映像で見せるべきか、それとも見せないほうがいいのかは意見が割れました。もし見せれば、冴木がヴィヴィを撃つかもしれないし、自分自身を撃つかもしれないし、結局は誰も撃たないかもしれない、といったサスペンスが生まれる。しかし逆に、その緊張感がドラマの邪魔になってしまうかもしれない。

長月 最終的に冴木が撃つまで見せないことにしたのは、銃を持っていることは戦闘シーンですでに描かれていたのもありますし、サスペンスの緊張感よりもドラマを優先したほうがいいだろうという判断ですね。結果的にシリーズの中でも反響の大きかったエピソードになりました。
■キーワードは“強キャラ”
――7~9話はヴィヴィの別人格であるディーヴァが登場する、ゾディアック・サインズ・フェスのエピソードです。
長月 ヴィヴィがディーヴァというこれまでとは正反対の明るい性格のキャラに豹変し、これまでとは違う形でマツモトとの関係を築いていく。最後にディーヴァが消えることは予め決まっていたので、まずは一人のキャラクターとしてきちんと確立させ、退場を惜しまれるように魅力を印象付けることを目指しました。

梅原 ディーヴァは“強キャラ”がキーワードでしたね(笑)。その明朗活発な姿に、視聴者の方も最初はヴィヴィに戻ってきてほしいと感じると思うのですが、だんだんとディーヴァにも共感できるようになって、観終わった後には寂しさまで感じてもらえたらいいなと。
――9話はディーヴァと垣谷(ユウゴ)のバトルシーンも見どころでしたね。
梅原 本当に素晴らしかったですね。バトルシーンの絵コンテ・原画を担当してくださったのは徳丸(昌大)さんというアニメーターで、4話でもヴィヴィ対エリザベスのAI同士のバトルを描いてくださいました。個人的に、垣谷がディーヴァの髪をつかむ序盤のアクションが好きなのですが、あれもシナリオにはないもので、徳丸さんが膨らませてくれたアイデアです。他にも腕に仕込んだナイフを取り出す直前の、吹っ飛ばされ、転がり、でも倒れきらずに起き上がるという、一連の重心移動の表現には心底驚かされました。
――歌姫AIのオフィーリアとサウンドマスターAIのアントニオについてはいかがですか?
長月 オフィーリアとアントニオの関係は個人的に思い入れがあるのですが、小説からは内容をだいぶ削ってしまっています。やはり『Vivy』はヴィヴィの物語なので、限られた時間はディーヴァのドラマに割こうと。もしオフィーリアとアントニオの関係に関心を持ってもらえたら、小説『Vivy prototype』の続刊もぜひ読んでもらえれば嬉しいですね。「AI同士の嫉妬心」「凡人の悲哀」といったドロドロとした感情を掘り下げた一押しのエピソードです。
■心をこめて歌うこと
――続く10話は、歌えなくなったヴィヴィが博物館で曲作りを始めます。
梅原 10話はシナリオ作業に入るまで、「ヴィヴィが曲を作る」以外に何も決まっておらず、最もふわふわした状態でした。でもその分、自由度が高くて書くのが楽しかった話数でもありましたね。

長月 「ヴィヴィが曲を作る間に、長い時間が経過する構成はどうだろう」というアイデアが突破口になりましたね。『Vivy』には「百年の旅」というキーワードがありますが、10話の時点ではまだ60年程しか経っていなかった。

梅原 だからヴィヴィがまだ少年だった松本(修)博士と出会い、年に1度会いに来るマツモトとも交流を重ねながら、博士の成長を追っていけば面白いのではないかと。そして最後に赤ん坊という、子孫を残せないAIにとっては未知の存在に触れることでヴィヴィは何かを感じ、曲作りという創作活動へ踏み出すブレイクスルーに繋がる。
――そして11~13話で物語はいよいよフィナーレを迎えます。最終エピソードが最も苦労したというお話もありましたがいかがでしたか。
梅原 ヴィヴィが歌で戦争を止めるというラストは決めていたのですが、そこにリアリティを持たせるのにどんなドラマを乗せればいいのかは議論を重ねましたね。

長月 今の時代、ラストを力業で済ませるわけにはいかないので、説得力のある展開が当然求められますからね。最終的には、歌にプログラムを乗せるという方法で、AIはプログラムの効果というロジック、人間は歌に心を動かされるというエモーションによって戦争が止まる。ただそのプログラムを作ったのは誰かというのも問題で、さまざまな案が出ましたが、最初から存在が主張できているキャラクターである必要があるだろうと、AI集合データベース・アーカイブに絞り込まれました。

梅原 曲を作るという、本来はAIが持たないはずの創造性を発揮したことでヴィヴィはアーカイブに特別な存在だと認められ、未来の選択を委ねられる。11話と12話はそうして最終話に向けた伏線を散りばめていきました。
――最終話の注目ポイントを教えてください。
梅原 個人的には、ヴィヴィのサポートAI・ナビの再登場ですね。クライマックスの歌唱シーンの前にも何か見せ場を作る必要があるだろうと悩んでいたときに、長月さんから「ナビと話すのはどうですか?」というアイデアが出てきたんです。

長月 ヴィヴィの当初のパートナーであったナビとも、何らかの形で決着を付けなければいけないという気持ちがあったんです。作品序盤の、ヴィヴィとナビのまるで友だちか姉妹のような関係は書いていて楽しかったのですが、マツモトの登場によってフェードアウトしてしまったので。
――ナビはモモカのホログラムによって、ヴィヴィの行動を止めようとします。
長月 ナビも「メインステージで歌う」というモモカとの約束を大切にしていたんですよ。

梅原 モモカを再登場させたのは、エザキ監督のお気に入りだったというのもあります。2話のラストに関しては、最後まで「本当にやるんですか?」と何度も聞かれましたから(笑)。

長月 なのでこの最終話の展開はすごく喜んでもらえました(笑)。
――クライマックスでヴィヴィが歌う劇中歌「Fluorite Eye's Song」はいかがですか?
長月 『Vivy』の全13話の中で、最も説得力が求められる楽曲なので、音楽チームにとっては非常に難しいオーダーだったと思います。「心をこめて歌う」ことという答えがないテーマに対して、イメージを形にしてくれた神前(暁)さんをはじめとする音楽スタッフには本当に感謝しています。ヴィヴィが1話から積み上げてきたものの答えを、ぜひ感じてほしいですね。

梅原 『Vivy』はAIと歌をテーマにした作品です。その集大成となる楽曲ですから、やはり歌声をじっくりと聴いてほしいですし、歌詞にもさまざまな意味合いを込めてもらっているので、そちらも読み込んでもらえたら嬉しいです。
――最後にファンの方々へ向けてメッセージをお願いします。
長月 『Vivy』は自分たちの好きなものを詰め込んで、面白さを追求して作った作品です。こうしてインタビューまで読んでくださった方は、そんな『Vivy』という作品を楽しんでいただき、もっと知りたいと思ってくださったのだと思うので、そのことに感謝の気持ちでいっぱいです。Blu-ray&DVDのオーディオコメンタリーやブックレットでも作品について話していますし、ラジオではキャストの方々も思い思いの感想を語ってくれています。特にマツモト役の福山(潤)さんの深い考察は、作り手である自分たちがいつも驚かされているくらいです。ご興味あれば、是非そういったものにも触れて、『Vivy』を味わい尽くしてください。

梅原 『Vivy』を通してみなさんの声が、すべてのスタッフの力になっていることを強く実感しています。『Vivy』を楽しんでくださった方々や、作品に関わってくださったすべての人たちに、何かしらの形で幸せを感じてもらうのがモノを創るということの最終目標だと僕は思っています。もし『Vivy』がそういった作品になっていれば、それ以上に嬉しいことはありません。本当にありがとうございました。

【了】