Vivy -Fluorite Eye’s Song- Vivy -Fluorite Eye’s Song-

――私の使命は、歌でみんなを幸せにすること ――私の使命は、歌でみんなを幸せにすること

SPECIAL

座談会
2021.04.19

『Vivy -Fluorite Eye's Song-』座談会 後編

音楽:神前 暁(MONACA)
音楽プロデューサー:山内真治
――4月からスタートしたオリジナルテレビアニメ『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』は現在、4話まで放送されました。この4話でついにオープニングテーマの「Sing My Pleasure」が流れましたが、改めてこの楽曲はどのように作られていきましたか?
山内真治 実は、当初はこれとは別にオープニングとして作った曲があったんですよ。

神前 暁 最初に作った曲はちょっとイメージが違ったみたいで。ただその曲に合うベストなシーンがあったので、そこで使われます。それはそれでまたいいんですよ。

山内 その曲のデモが上がってきたときに、「これこれ! これぞ神前節!」って、思わずMONACAのスタッフさんに電話したぐらいで(笑)。

神前 それがあって別のオープニングテーマ曲を作ろうという話になったんですね。
――そんな「Sing My Pleasure」ですが、冒頭のコーラスから非常にスケール感のある一曲になりましたね。
神前 SF感がありますよね。だけどちょっと生々しいというか、機械だけど機械じゃないみたいな感覚です。曲的にはテンポがめっちゃ速くてメロの跳躍がすごくあって……と、それは意図的にやっているんですけど、僕の曲のなかでいちばん難しいんじゃないかなっていうメロディですね。

山内 よく八木さん歌えたよな、って。

神前 よく歌ったなあ……(笑)。

山内 もしカラオケ行ってこの曲を歌ったら、ものすごいチャレンジングだけど歌い終わったあとは達成感があると思う(笑)。
――改めてここでも八木さんの才能を感じさせる楽曲にもなっていると。
神前 そうですね、うん。
――改めて八木海莉さんというあらたな才能との制作はいかがでしたか?
神前 最初にレコーディングしたのが1話で一瞬だけ流れる「My Code」というバラードでした。レコーディングの印象としては、もの凄く上手な子だなと。とにかくうまかった。曲を覚える練習期間は短かったんですけど、しっかり歌いこなしているなあって。
――神前さんはそこで八木さんと初対面になるわけですよね。
神前 僕はそのレコーディングで初対面でした。事前に資料はいただいていたんですけど大体弾き語りのカバーだったので、オリジナルを歌うとこの子はこうなるんだってそこで知るというか、それを聴いて「もっと攻められるぞ」って。「この子だったらテクニカルなものがいける」っていう実感があって、「Sing My Pleasure」を作ったんです。

山内 オープニングを歌ったのは、Vivyの歌録りを始めてから3曲目ですね。年明けすぐに歌ったのかな。最初に「My Code」があって、次に「A Tender Moon Tempo」があって……。

神前 満を辞して「Sing My Pleasure」なんですよね。

山内 そこも作品の時間の経過に沿ったレコーディングになっているんですよね。
――「My Code」はいかがでしたか?
山内 これ最初はメインテーマの候補曲だったんですよ。内部向けのパイロット版映像を作るにあたって最初に書いてもらったもので。

神前 そうなんですよ。今回は候補に出した曲から発展して劇中歌になるものが多くて。

山内 メインテーマとしてはイメージが違うんだけど、曲としてはすごくいいから、他で絶対使えるだろうということでキープしていた。

神前 それでサビはまるっと変えたんですよね。AメロBメロは当時のままで、サビは盛り上がる感じにしました。
――「A Tender Moon Tempo」は井上(馨太)さんが作編曲で神前さんはブラスアレンジということですが?
神前 デモの段階でブラスが大きくフィーチャーされていたので、生録音用にアレンジさせてもらいました。彼はレコーディングの経験がまだ浅いので。実は生バンドを録るのも今回が初めてだったという。

山内 スタジオでものすごく緊張されてましたよね。

神前 でもミュージシャンのおかげで素晴らしいトラックになりました。このプロジェクトはミュージシャンにも恵まれていますね。
――3話での歌唱は1話の「My Code」と比べると、心なしかヴィヴィの声に感情がこもっているような印象もありますね。
山内 劇中でもお客さんがちょっと増えている。

神前 お客さんの反応が良くなっているんですよね。
――そこについて八木さんへのディレクションはありましたか?
山内 「ちょっと上手くなった感じで歌おうか」というようなディレクションはしなかったです。最初の頃は彼女緊張してプルプル震えていたんですけど、2回目以降はその震えている時間が短くなって。

神前 本当に八木さんの成長の過程を見られるんですよね。成長というかレコーディング慣れというか。

山内 人生に一回しかないその瞬間を、ある意味歌という形で真空パッケージしたのかな、と。

神前 彼女の今後のアーティスト生命は長いと思うんですけど、そのなかで今しかない声だなと思いますね。ちょっとひりっとした。
――本作の一連の楽曲を聴いていくと八木さんの変化も感じられるという。「Sing My Pleasure」も実際に聴くと、跳躍するメロディのなかで八木さんの感情の動きが聴かれるボーカルになっているなと。
神前 そうなんですよね。ただどこかに冷静さがあるというか。
――八木さんが歌う劇中歌はこのあとも控えていますが、そこにも期待したいですね。さて、本作はそれ以外でもさまざまな劇中歌が使用されています。まずは1話冒頭で流れる「Happy Together」ですが、こちらは文字通りハッピーな曲なんですが……。
神前 使われ方がね(笑)。
――まさかあんなディザスターシーンで使われるのかという(笑)。逆にハッピーさにゾッとするというか。
山内 サウンドに関してはわかりやすくEDMでいきたいというのはあったんですよ。

神前 そうですね。いわゆる記号的なアイドルソングですね。

山内 MONACAチームとも相談して、そういう曲調ならば石濱(翔)さんに頼むのが絶対いいよね、という話になりました。歌詞に関しては、只野菜摘さんに『Vivy』の曲の中でいちばん最初に歌詞を書いてもらったんですけど、いわゆる汎用型の歌姫AIにデフォルトでプリインストールされているであろう楽曲のイメージでいきたかったんです。誰が聴いても、ぶっちゃけすごく良くもないけど嫌いでもない、ぐらいの感じを出したいよねって、何度も只野さんとテレカンでブレストしたり、実際に会って話したりして。結果的にポップスにありがちな、テンプレみたいな歌詞にしようと。
――ああいう使われ方のために、あえて平易な歌詞にしたと。
山内 例えるならば、「翼があれば君のところに飛んで行くのに」とか「もっとHold me tight」みたいな、そんな感じの(笑)。それで只野さんから出てきたのが「Happy Together」という、多幸感しかない曲タイトルと、あの歌詞なんです。

神前 ものすごい黒さがありますよね。

山内 歌詞が逆説的に醸し出す狂気、というところに着地すればいいなと思っていたら、思った以上にそうなったという。「一緒に幸せになろうよ」って歌いながら粛々と殺戮が行われる、という恐怖。
――この曲を含めて、本作の全歌詞を手がけた只野菜摘さんの手腕も大きいかと思いますが、改めて只野さんの歌詞についてはどう感じられましたか?
山内 只野さんを推薦していただいたのはMONACAチームからなんですけど、僕が最初の段階で考えていたのは、歌い継がれる歌謡曲のような、普遍性のある歌詞を書ける人、ということでした。リアルタイムで歌謡曲全盛の時代を体感して来た人じゃないとわからないような感覚を、誰にでもわかりやすく伝えられる方という点で、只野さんと巡り会えたのは本当に良かったと思います。あと神前さんが以前のインタビューで「私小説のような歌詞だ」と言ってくれていて。

神前 言っていましたね。

山内 100年の物語という、時代を超えて歌い継がれて行く普遍性をテーマにはしたんですが、その普遍性とか世界観の大きさみたいなものを歌詞で表現しようとすると、壮大すぎて散漫なものになってしまう。最初は本当に手探りで、只野さんに結構リテイクもお願いしたりしたんですけど、最終的にはAIだから機械だからということではなく、ひとりの人間としてだったらどういう感情になるだろうか、ということが歌詞の一つの指標になって行ったと思います。

神前 僕の知らないところで紆余曲折があったと思うんですけど、視点の置き方はすごく難しいなって思いますよね。

山内 また曲とは違った苦労をしてもらっちゃいましたけど、神前さんが「私小説を読んでいるみたいだ」って言ってくださって、それが正解なんだよなぁ、って思って。

神前 全部「〈私〉の物語」になっているんですよね。プロってすごいなあって思いますね。
――そのほかの劇中歌でいうと、3、4話で使用された「Ensemble for Polaris」ですが、エステラとエリザベスによる感動的な一曲になりました。
神前 これはね、僕がぜひケルトをオーケストラの感じでやりたいというアイディアを出させていただいて。高田(龍一)くんはそこが上手いのでお願いしたんですけど、いいですよね。

山内 めちゃくちゃいいですよね。

神前 「おおっ! SF! 宇宙! ケルト! これこれ!」っていう。また映像とのマッチングが素晴らしいですね。
――4話のクライマックスは感動的でしたね。一方歌詞に関してはいかがでしたか?
山内 歌詞は最初、もっと物語場面に沿ったパーソナルな気持ちを描いていたんですけど、本来はその時の彼女たちの感情を表現するために作った曲じゃなかったはずだよな、と思って。エステラに元々インストールされていた、誰かがこういう場面を意図せずに作った曲なんだよな、という。あの曲はおそらく、宇宙ホテルの天井を開いて、お客様に星空をまるでプラネタリウムのように見せる時のBGMとしての歌だよなと思って、結果、星にまつわる単語が散りばめられた歌詞に仕上げてもらった経緯がありました。
――さて、劇中歌のほかにも劇伴を神前さんが中心に作られていますが、改めて100年の時間を過ごしていくなかでの音楽制作は作っていていかがでしたか?
神前 時間経過を音楽で表現するのはなかなか難しいんですよね。「何十年経ちました」ってセリフで言われちゃったらそれまでだし、逆に時間経過したけどそこまで変わらなかったり、少しずつ世界の形が変わっていくものもあったりして、そこは意識しながら頑張ってみましたけどね。
――長い時間経過のなかでの音楽というものの難しさや気の使い方があると。
神前 あとこの作品はシーンの解説よりも、どちらかというと心情を説明するドラマに重きが置かれた描かれ方なんですよね。そのなかで音楽の使われ方としては曲が鳴る頻度とかでも、少しずつ世界が変わっていくんだなというのはダビングしていても感じますね。特に後半になると、話が進んでいくと寂しいというか、「時間が経つってこういうことなんだな」ってなんとも言えない気持ちになります。
――そうした意味では物語の最後まで、音楽がどう変化してどう着地するのかは気になるところです。
神前 これからですね。お話のクライマックス的な部分に向けて、歌も音楽も映像と合わさった破壊力がかなりあるんじゃないかなと。個人的に作曲家としても聴いてほしい。そう思えるものが出来たなって思います。
――神前さんのなかでもメロディやサウンドの作りでも、これまでの経験をすべて注ぎ込んだものになっていると。
山内 神前さんからポンと一発で出てきた曲とか、悩んで悩んでいじり倒して1周半くらいしたような曲とか、それらが全部詰まっているという。

神前 スっと出来た曲もあって、今後登場する曲ですが、それはデモは1日で出来たものなんですけど最高に気に入っている曲だったり。

山内 時間がない中での楽曲制作だったので、途中までの段階のデモが送られてくることもあるんですけど、聴いて「これだ!」というものがあると、「このままの感じで行ってください!」と。

神前 「これでいいのでメロはいじるな!」って言われたんですけど、案の定いじって「やっぱ元のほうがいい」とか(笑)。

山内 逆に「メロディがもうひと山欲しいです!」というのもあったりね。

神前 いろんな過程を経ていますね。
――お話を伺えば伺うほど、ヴィヴィや八木さんだけではなく、神前さんの歴史も詰まっている、神前さんの100年物語でもあるのかなと。
神前 僕は1年物語ぐらいですけど(笑)。振り返るとなかなか味わい深いものがありますね。
――そんな『Vivy』の楽曲ですが、4話が放送された段階で、DL配信、ストリーミング配信がスタートされています。こうしたフットワークの軽さも非常に珍しいなと。
山内 ストリーミングも含めて放送タイミングで展開したのは初めてです。アニプレックスとしては大胆なチャレンジでもあり、ひとつの実験でもあります。ソニー・ミュージックレーベルズは、いち早くパッケージ主体のマーケティングをとデジタル化して行く流れを、それこそ強襲揚陸部隊の突撃のごとく推進してきて、それが奏効しているのではないかと思っています。一方で、アニメのマーケティングにおいてはまた別の最適なタイミングがあると思っていたのですが、それをやるのが今なのかなと。ソニー・ミュージックに蓄積されたノウハウを活用させていただきながら、アニメの音楽として最適なタイミングのリリース展開が掴めれば、と思っています。
――そこから5月26日にはオープニングテーマ「Sing My Pleasure」のCDもリリースされて、ユーザーの好きなフォーマットで音楽を楽しむことができる。そこもまた今っぽいというか、2020年代型のアニソンを占ううえでひとつ画期的だし、今後もそうなっていくところがあるのかなと思います。
山内 そうなっていかなきゃいけないんでしょうね。そのチャレンジを、作家活動20年を超えた神前 暁という作家で最初にできるというのは大きな意義があるし、個人的にもそれができる喜びがあります。
――ストーリーとしてはもちろん、音楽としても『Vivy』という作品を楽しむタイミングは今であると。
神前 しっかりついてきてほしいですね。これからどんどん盛り上がっていくと思うので。

山内 オリジナルがゆえに予想外の仕掛けもたくさんあるから、そこも注目してほしいですね。
――それこそこのタイミングから観始めてもまだ遅くないぞと。
神前 そうですね。序盤の一区切りした所でちょうどいいかと。

山内 まずは4話まで観てほしいですね。ここからブーストがかかります。

神前 歌ももちろんですが、生楽器も妥協なく録っていますので、そこも聴いてほしいですね。

山内 すごく分厚いサウンドになっていますよね。サウンドの構築という意味でもそうなんですけど、響きとしてもすごくリッチになっているので、聴くほどにいろんな発見もあると思います。なので、いつでも持ち歩いて繰り返し聴いていただけるとうれしいです。
――では最後に、視聴者のみなさんにメッセージをお願いします。
山内 物語と音楽が完全にリンクしているので、映像の見え方も音楽の聴こえ方も一味違うと思いますし、出来ればその体験をリアルタイムでしていただきたいなと思います。

神前 音楽を作るうえで非常にやりたいことをやらせてもらったし、手応えもあるので、ぜひ聴いてもらいたいですね。個人的には自分のいろんな好きなものも入っているし、そこは愛ですね。リスペクトってこういうことなんだろうなっていうのが裏テーマです。とにかく聴いてほしいし観てほしい。そのうえでどう感じるかはそれぞれだと思うんですけど、まず触れてほしいですね、この作品に。

山内 『涼宮ハルヒシリーズ』『〈物語〉シリーズ』『Wake Up, Girls!』など、神前さんの代表作が好きな人はぜひ観てください。

神前 特にWUGはそうですね! あと『アイマス』も。

山内 神前さんの、この20年で作ってきた曲で何かしら引っかかった記憶がある人は観たほうがいい、と言い切ります。

神前 それこそ、自分の40周年記念のアルバムを出すのなら、全部入れたいぐらいの曲たちになりました。あとは将来、八木海莉さんが売れたときに「わしが育てた」って言いたい(笑)。本当に海莉ちゃんの存在はこの作品に欠かせないので、そこもチェックしてください。