Vivy -Fluorite Eye’s Song- Vivy -Fluorite Eye’s Song-

――私の使命は、歌でみんなを幸せにすること ――私の使命は、歌でみんなを幸せにすること

SPECIAL

座談会
2021.04.04

『Vivy -Fluorite Eye's Song-』座談会

音楽:神前 暁(MONACA)
音楽プロデューサー:山内真治
――『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』にてどのように音楽が作られていったのかをお伺いします。まず音楽プロデューサーである山内さんには、本作の音楽依頼はどのように来たのでしょうか?
山内真治 結構前なんですけど、2年程前に、『Vivy』の作品プロデューサーである弊社の高橋祐馬(以下高橋P)から相談があって「音楽が凄く重要なオリジナル作品を作りたい、簡単に言うとAIが滅ぼす世界を100年かけて歌で救う話です」ということだったんですね。「100年?なんだそれは?」と(笑)。その後もらった資料が膨大でまたびっくりしたと。

神前 暁 最初の資料は小説でしたよね。

山内 小説で、それがすごいテキスト量で。
――別の座談会でも語られていましたが、シリーズ原案・脚本の長月達平さんと梅原英司さんが、最初にアニメの原案として小説を書かれたんですよね。
山内 オリジナルアニメというのは大体「シナリオいつ上がりますか?」とか「プロットでいいからください」という感じのやり取りがよくあるんですけど、今回は最初から資料としてのテキストが膨大で、僕が関わった作品の中でも資料の文字量はかなり多かった気がします。特にシナリオの前に小説があった、というパターンは珍しいんじゃないかな。
――そうしたなかから音楽に神前さんを起用するに至った経緯は?
山内 まず高橋Pから「この作品は神前さんに音楽をお願いするのがいいと思うんですけど、どうですかね?」という感じで相談されて。その瞬間、僕が知る限りの神前さんのスケジュール状況を頭の中で巡らせて、「多分その頃は『〈物語〉シリーズ』を抜けているはずだ」と踏んでオファーしました。ただ、すごい膨大なテキストはあったんだけど、ビジュアルやキャラクターなかなか見えて来なくて、そこをどう掴もうかというので最初苦労した覚えがありましたね。
――神前さんを起用することは決まっていたけど、その世界観にどんなサウンドが合うのか、最初の段階ではまだ掴みきれていなかったと。
山内 そうですね。音楽に関していうと、歌がすごく重要で曲数もたくさんある、ということと、劇伴もちゃんとリンクして行ければ良いかも、というのもあり。それをトータルで頼めて、歌も劇伴もどっちも大勢の人に聴いてもらえるものに仕上げなければいけない、という状況で、背中預けられるのは神前さんしかいないとは考えていました。なので、神前さんのスケジュールをいただけた段階で、エザキシンペイ監督と長月さん、梅原さんを含めた主要スタッフで打ち合わせしたんです。そこからちょっとずつ進めてはいたんだけども、音楽としての着地点がなかなか見えないまま時間が過ぎて行ってしまって。

神前 僕も最初は「歌ものがいっぱいある、AIが存在するSFもの」でという話をいただいて、それから資料をいただいたんですよね。そこで膨大な話の縦軸はわかったんですけど、そこから各話各話で話がアニメとしてどう面白くなるんだろうかという部分がなかなか掴みにくかった印象でした。アニメの膨らませ方は小説とはまた違うので、そこを掴むのに時間がかかったかなと。
――そこを自作の曲を含めて音楽をトータルで監修することに何か影響はありましたか?
神前 全部やらせてもらえるということで、結果的に自分にとって『Vivy』とはこういう作品だというイメージを全部投影できたので、それはやりやすかったかなと思いました。あとは劇伴や劇中歌を自分が所属するMONACAの人間に担当してもらって、すべて僕が監修して、もちろん僕自身も書かせていただいたんですけど、そこもやりやすい座組みだったかなと。例えばひとつの作品でいろんな事務所の作家さんが携わられているものがありますけど、そういうのに比べますと進めやすいかなという気がします。
――音楽制作ではまずパイロットフィルムに充てる楽曲を作られたとのことですが、それはどんな楽曲だったんですか?
神前 いわゆるメインテーマ的なバラードでしたね。

山内 映像は1話のシーンとしてのちに使われていますよね。

神前 一部映像としては使われていますけど、当時は作画の検証用みたいなものでしたよね。完全に内部向けのものでイメージを共有するものというか。

山内 歌っているシーンではなくて、バトルのシーンなんですよ。しかもバトルシーンなのにバラードなんですよね。それはオリジナルあるあるですけどね、作りながらどんどん形が変わっていくので。

神前 当時はフィルムの最終的な完成形が僕には想像が付かなかったです。

山内 シリーズ構成の長月さんと梅原さんの中にはあったんじゃないかな?とは思うんですけど。

神前 そこをいかにみんなで共有していくのかというのがオリジナルの難しさですよね。
――そこから神前さんとしては音楽制作のどこから手をつけていかれたのですか?
神前 大きな作業の流れでいうと、パイロット版で歌ものを作ったあとに時間が空いたので、まず一気に劇伴を作りまして、そのあと改めて歌ものという流れですね。ただ、劇伴の途中でオープニングテーマとかは並行してやっていったかな?
――それではまず劇伴から伺いますが、山内さんとしては劇伴のコンセプトはどのように考えられていましたか?
山内 『Vivy』は100年かけて物語が進行していく作品なので、その時代をいくつかに分けて変化させて行きたいというのがアニメ制作サイドからはありました。

神前 なので、前半は意図的に電子音が多いサウンドが中心ですよね。
――たしかに1、2話などで聴かれるサウンドはSF的なエレクトロニックなサウンドが印象的です。
神前 そうですね、みんながイメージする未来感。
――ただ、そのなかでも100年間の出発点ということもあってか、アナログな未来感というか、ちょっと懐かしい鳴りを感じました。
神前 そうなんですよ。80年代ニューウェイブ的といいますか、レトロフューチャーなシンセの使い方をしようという取り決めは最初からしていまして。ヤマハのDX7やローランドのJUPITERとか、往年の名機のサウンドを積極的に使って劇伴を作りました。

山内 ひとつ思ったのは、100年経っても楽器や音楽、特に楽器のイノベーションってもうそんなに起きないだろうなって。なので、スタンダードなものとして残っていくのならどんなサウンド感なんだろうって考えたときに、神前さんが言ったようにヴィンテージシンセの感じとかを出すのがいいのかなと。

神前 100年先からすれば、生の弦楽器もギターもシンセも、同じ楽器として存在しているものだから、というスタンダードですよね。
ーーそうした電子音的なサウンドの一方で、非常に重厚なオーケストラサウンドの楽曲も印象に残りました。
神前 かなり重厚だと思います。この作品には戦闘シーンも多くあるので、そこに関しては圧のあるオーケストラと電子音というのは意図していましたね。それもあって弦と管はかなり録りましたね。
ーーそうしたメロディの立った劇伴が、バトルシーンなど要所要所で効果的に使われているなと。
神前 あれは使い方がいいんですよ。ダビングも何度か立ち会ったんですけど、音楽が印象的な当て方をしていただいて。いい意味で「お、この曲前にも聴いたぞ」という定番的な当て方が実にうまい。

山内 これは(音響監督の)明田川仁節ですよね。

神前 アクションのメインテーマがメインテーマに聴こえるんですよ(笑)。これって大事なことでして、「きたきた! 待ってました!」っていう。そこはすごいなって思いましたね。音楽演出も素晴らしいと思います。
ーー劇伴も作中の盛り上がり対してストレートな当て方をするという、これもまたいわゆる”スタンダード”な起用法であると。
山内 音楽制作に関していうと、そこは裏テーマ的に全部繋がっていると思います。音響作業としてもそこに繋がっているのは素晴らしいことだと思いますね。
ーー映像とセリフ、そして音楽がしっかりとリンクしている作品として、複雑な世界設定なのだけど、ストレートに受け止められる点はそこにあるわけなんですね。
神前 でもね、”ながら観”したらだめなんですよ。この作品は声と画で違うことを表現していて、それが組み合わさってひとつのシーンになっているということが多い。コンテでいうと、ト書きと画が別のお芝居をしているようなことがあるので、ぜひながら観せずにちゃんと観て(笑)。でもそうするとスッキリ入ってくるんですよね。完成品を観てわかることがあるというか。

山内 僕もダビングに立ち会って初めてわかったことはたくさんあります。

神前 ありますよね。僕も絵コンテだけで読みとれる能力がアニメーターの方ほど高くないので。
ーーさて、続いて劇中でも流れるボーカル楽曲についてお伺いします。まずトピックとしては主人公のヴィヴィの歌唱を新人シンガーの八木海莉さんが担当しているところです。この起用はどこから出てきたのですか?
山内 僕のなかでは、キャストの皆さんが歌の上手い人達だったこともあってボーカルも声優さんで行く、というアイディアもあったんですけど、ここはやっぱり歌としてしっかりと独立させたい、というコンセプトのもと、キャストとは別にボーカリストを立てることにしました。ただ、すでにデビューされているアーティストの方を起用した場合、やはりそのアーティストのカラーがどうしても出てしまって、それはアーティストとしては正しいことなんだけれども、作品としてはキャラクターとしての色を付けたいわけで、つまりお互いにとってあまり良い効果が得られないと思ったので、なのでこの作品では将来性豊かでまだデビューされていない人が必要だったんです。
ーーアニプレックスの作品でいうと、2010年に『Angel Beats!』でLiSAさんを起用したような形ですね。
山内 と言いつつ、そういう将来性がものすごくあってまだデビューしていない、誰もが欲しがるそんな逸材は果たしているのか、と。ただ、アニプレックスは幸いにしてソニー・ミュージックのグループ会社で、そこには新人発掘に関して長年培ってきた膨大なノウハウとネットワークがあるので、思い切って相談しました。そうしたらすぐに「そういうことだったらこういう人がいます」と紹介されたのが、八木海莉さんだったんです。
ーー神前さんが八木さんの歌声を聴いた感想は?
神前 僕はそもそも声優さんとは別に歌手の方を立てるのは懐疑的だったんですよ。やっぱりキャラソンなので、キャラクターが歌わないとちょっとイメージがブレるんじゃないかって思っていたんですけど……八木さんはすごいですね。よくもまあ見つけてきたなっていう。今では『Vivy』の歌は彼女しか考えられないという。

山内 最初に歌を聴くと、すごく突き抜けてうまいという感じではないんですよね。

神前 テクニカルな面はすごく高いんですよ。でもイノセントさというか、ピュアというと聞こえがいいんですけど……もうちょっと危うい。

山内 そう、危うさを常に持っている。

神前 あと、体温がすごい低い感じがすごくする。
ーー彼女が本来持っていた温度感が『Vivy』という作品、あるいはヴィヴィの持つAI的な存在感とマッチしたわけですね。
神前 本当そうなんですよ。

山内 さらっとすごいことができているんだけど、その危うさもあいまって、いい意味ですごいことをやっていると全然感じないという。ピュアさや無垢さと混じり合ってすごい独特の雰囲気だし、その独特な雰囲気にすごく合う声質だと思う。

神前 奇跡的なマッチングですね。

山内 実は彼女がヴィヴィとして初めてレコーディングしたのが1話の劇中曲なんですよね。この作品は、AIが「心を込めて歌うこととは何か」を探すという、ヴィヴィの成長譚という側面もあったので、最初から歌が上手いのはちょっと違うな、って思っていたんですけど、八木さんにとってヴィヴィとしてレコーディングするのははじめてだったので、”最初な感じ”が出ているんですよ。めっちゃフレッシュ。

神前 ヴィヴィの成長物語が、八木さんの成長物語にリンクしているんですよね。

山内 よくできている(笑)。
ーーその八木さんとのレコーディングなどのお話はまた改めてお伺いしますが、そうした神前さんのサウンドアプローチについては、全体的にグッドメロディを聴かせるという、こちらもまた”スタンダード”なつくりなのかなと。
神前 そうなんですよ。最初はSF的な、尖ったアプローチなのかなって思っていたら、山内さんの方から「歌謡曲が欲しい」と言われたんです。僕の今までの作風のなかで、今回は僕の結構ベタな部分を評価してくださって、そこをてらいもなく出せと。それって自分にとっては、ともすれば少し恥ずかしいことではあるんですけど、それをどこまで出せるかなっていう。なので意識したのは歌メロとしてのわかりやすさ、キャッチーさですね。
ーーまさに作曲家としてのエバーグリーンな魅力を出すことを意識したと。
神前 こっちはがんばってどんなネタを出そうかなって考えながら「へい! 何にしましょう?」って言っているのに、「いつもの!」って(笑)。

山内 「赤身! トロ!」みたいな(笑)。

神前 まさにそんな感じです。でもそれが、自分の持っている音楽性を客観的に見直すいい機会にもなって。これだけメロを書くと見えてくるものなんですね。歌詞を只野(菜摘)さんにお願いしたのも、歌謡曲の歌詞が書ける人というチョイスなんですよね。
ーーそうしたメロディを聴かせる歌ものというものの片鱗は1話でも確認できますが、そうした楽曲が今後もたくさん登場すると。
神前 歌に関しては、序盤ではまだそこまで出てきていないんですけど、いっぱいあるのでご期待ください。劇伴に関していうと、まず映像を楽しんでください。音響チーム一同がいい仕事をしていると思います。

山内 劇伴はその曲を聴いたときに「あのシーンだ」って感じてもらえるような聴き方ができると思います。いい塩梅な曲の使われ方がされている、アニメ劇伴の理想的なあり方だと思います。

神前 そうですよね。なのであまり使われなかった曲もあるんですよ。いっぱい書いて、そのなかからドンピシャなものだけを何度も使っているとかがあるので。

山内 仁さんはそういうことをやるんですよね。

神前 作品にぴったりハマると思った曲を徹底的に擦っていくというか。ただそれが印象づけられるので、いいなと思います。

山内 贅沢ですよね。
ーーそうした歌もの、劇伴の聴かせどころはこの先のストーリーを拝見した限りではまだ多くあるのかなと。例えば4話あたりとか……。
山内 最初の山場はそこですね。その最初の山場までちゃんと作品と向き合ってくれたら、またそこからふた山ぐらいまた来ます(笑)。そこに音楽も確実にリンクしてきているし、そこにみなさんの好きな神前 暁節が出てくると思いますよ。

神前 いっぱいあります。

山内 これはね、すでにダビングに立ち会っていますけど、完成したものを観たら泣くかもしれない。

神前 僕はまだ観てないですけど、あそこですよね。

山内 ストーリーと共に音楽がスッと入ってくるような作りになっているんですけど、劇伴も歌ものも、見ている人の感情に寄り添うように入って来ます。

神前 そうですね。すごくいい。

山内 ちなみに神前さん、今回の一連のレコーディングで結構な回数、「うん、これいいな」って言っていましたよね。

神前 言ってました(笑)。心の底からすごくいいと思いましたね。自分の持っている本質的な部分と、テクニカルに磨かれてきた部分がちょうどいい塩梅で融合しているのを実感します。ぜひ聴いてほしいです。