Vivy -Fluorite Eye’s Song- Vivy -Fluorite Eye’s Song-

――私の使命は、歌でみんなを幸せにすること ――私の使命は、歌でみんなを幸せにすること

SPECIAL

座談会
2021.02.27

『Vivy -Fluorite Eye's Song-』座談会

シリーズ原案・脚本:長月達平 梅原英司
WIT STUDIO:和田丈嗣 大谷丞
ANIPLEX:高橋祐馬
■アニメの原案として小説を書き下ろす
――本作の企画の経緯を教えてください。
和田 私が梅原さんに「オリジナルのアニメ作品を一緒に作りませんか?」と声をかけたのが企画の発端です。梅原さんとは前所属先のProduction I.Gの同期で、WIT STUDIOを設立してからも劇場用アニメ『曇天に笑う<外伝>』三部作のシリーズ構成をはじめ、多くのタイトルを一緒に作りました。そんな二人で話を進める中で「長月さんを誘ったら面白いのではないか」という提案を受けたんです。

梅原 長月さんの小説を原作としたTVアニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』(以下リゼロ)へ脚本で参加したのですが、そのシナリオ会議がとても良い経験になったんです。小説をTVアニメの脚本にどう落とし込めばいいのか、原作者の長月さんも交えて建設的な議論ができたという手応えがありました。また僕はTVアニメのシリーズ構成を手がけたことがなかったので、過去の現場で成功した手法を踏襲したいという気持ちもありました。そこで今回の『Vivy』でも、アニメのシナリオ制作の前に、一度小説として形にするところから始められないかと思ったんです。

長月 梅原さんから「小説のアニメ化ではなく、オリジナルアニメの原案として小説を書き下ろしてほしい」と言われたときは正直驚きましたね(笑)。でもアプローチとして新しいし、すごく面白そうだなと感じました。それに僕は『リゼロ』でご一緒する以前から、ゲーム『CHAOS;CHILD』で梅原さんの書かれたシナリオに衝撃を受けていたんですね。『リゼロ』ではシリーズの後半から梅原さんに参加していただいたんですが、新しい脚本家として「梅原英司」という名前を紹介されたとき、「あの『CHAOS;CHILD』の! つい先日クリアしたばかりだぞ!」と興奮してしまったくらいです(笑)。
――運命的な出会いがあったわけですね(笑)。
梅原 初対面の第一声で、そのお話をしたことはよく覚えています(笑)。

長月 年齢が近いこともあり、その後も話が弾みましたし、梅原さんと一緒であれば面白いアニメが作れるという確信もあって是非参加したいなと。そこから二人で打ち合わせを重ねて、全話を通したシリーズ構成表を作り、それをもとに梅原さんとエピソード毎に担当を分けて、それぞれ小説として書き下ろしていきながら、お互いの小説を推敲してブラッシュアップしていきました。

梅原 もともと『リゼロ』は長月さんがWEBサイト「小説家になろう」で書いた作品を出発地点に、内容を圧縮して書籍化、さらにアニメではTVシリーズのフォーマットへとまとめ直しています。そのように、メディアをまたいだアレンジの経験が豊富な長月さんに、一度小説という形式で世界観を自由に広げていただきたいという狙いがありました。
――原案小説という工程を経ることで、通常のオリジナル企画以上に、作品内容を繰り返しブラッシュアップすることができた、と。
梅原 また、オリジナルタイトルの場合は作り手側も作品の全体像が見えづらく、スタッフ間でのイメージの共有も難しい場合もありますが、先に小説があれば、それが制作における指針となってくれると感じました。

長月 だから、小説はあくまで原案という位置付けであって、アニメでは監督やプロデューサーも交え打ち合わせを重ね、大きくアレンジを加えています。実際、キャラクターの性格や起きる出来事、結末に至る道筋まで異なっていますからね。先にどちらかのストーリーを知っていても、もう片方を新鮮に楽しめるようになっています。

梅原 作り手側には原作があるという安心感を与えつつ、受け手側にはオリジナルならではの先の見えないワクワク感を届けられるのも、この手法の大きなメリットですね。あえてデメリットをあげるとすれば、ものすごく時間がかかることぐらいでしょうか(笑)。企画が始まったのが2016年の年末で、小説を書き始めたのが17年、最終的に脱稿したのが18年後半ですから。声を大にしてはおすすめできない手法です(笑)。
――『Vivy』の具体的な物語はどのように作られていったのでしょうか。
長月 「AI」と「歌」というテーマは、梅原さんに声をかけてもらった時点ですでに出ていました。AIをめぐる魅力的な切り口は多いですが、その中でも人間と比べて寿命が非常に長いという点に注目し、「時間」を活かした物語にしたいと思いました。それで「過去に戻る」という時間遡行の設定が組み込まれていった……のはやはり僕が企画に参加したからでしょうね(笑)。

和田 タイムスリップは『リゼロ』でも鍵となる、長月さんの得意なモチーフですからね。長月さんに「時間」という要素を前面に出してもらえたことで、『Vivy』という企画は大きく進展したと思っています。

長月 主人公であるヴィヴィというAIの少女は、過去に起きた出来事と、歴史として残されている記録が異なっていることに気付きます。その中で人間とは異なる判断基準を持つ彼女が、AIとしての選択を迫られる――。このコンセプトが固まってからは、書くべきアイデアはすぐに出てきました。

梅原 『Vivy』はジャンルとしてはSFですが、難解な設定は極力排除しました。SF設定はあくまでドラマを盛り上げるためのものと捉えて、幅広い視聴者にも楽しんでもらえる、真っ正面のエンターテイメントに挑んでいます。

長月 そもそもAIやタイムスリップはハリウッド映画にもよく出てきますし、本当は万人受けするジャンルだと思うんですよ。僕は企画を聞いて「AIものでやれることは全部やりたい」と、エピソードをこれでもかと詰め込みました。そのうえで、各エピソードを追っていくうちに、それぞれの物語が繋がり自然と大きな結末にたどり着く――そうした作品全体を通じて面白さを感じてもらえる物語へとまとまっていきました。
■信頼できる同期に託した制作現場
――制作にあたり、アニメのメインスタッフはどのように決まったのでしょうか?
和田 実はエザキシンペイ監督も梅原さんと同じで、Production I.G時代の私の同期なんです。エザキ監督はWIT STUDIOの初元請作品であるアニメ『進撃の巨人』から参加してもらっていて、大谷プロデューサーと共に数多くの作品を手がけてこられました。アニメ制作は集団作業ですから、そういったプラスに働く人間関係も重視して依頼しています。エザキ監督であれば現場で踏ん張ってチームを引っ張ってくれるだろうという確信がありました。

梅原 エザキ監督はキャラクターのドラマを繊細に描ける演出家なんです。僕らのシナリオに対して、意図をきちんと踏まえたうえで、演出的に膨らませてくれるだろうという信頼感がありました。

大谷 エザキ監督はシナリオをコンテに落とし込むのが上手くて、『Vivy』ではAIらしい感情表現やアクションが魅力の一つになっています。また今回は作中の時代が大きく移り変わりますが、その変化を背景美術で表現しているところもエザキ監督のこだわられた点でした。映像では時代ごとの背景の変化にも注目して楽しんでいただきたいです。

和田 そうした表現ができたのも、原案小説がある強みですね。最初から作品の全体像が見えているからこそ、作画や背景を物語と上手く連動させることができました。
――キャラクターデザインの高橋裕一さんはいかがですか?
大谷 キャラクターデザインはコンペティションで決めたのですが、エザキ監督から「ぜひ高橋(裕一)さんもコンペに誘ってほしい」とご紹介いただきました。高橋(裕一)さんは原案の絵柄の特徴をつかんでアニメ用にリファインするという能力はもちろん、言葉で伝えたことを絵に起こす感覚が抜群で、一目見た瞬間に「これしかない!」と納得させられる絵になっていました。
 他のスタッフも、エザキ監督の過去作品に関わった優秀な方々に多く参加していただいています。そういった人脈の豊富さにも助けられています。
■世界観を形づくる音楽
――アニプレックスさんが企画に加わったのはいつですか?
和田 小説の初稿が完成に近付いた2017年に、私からアニプレックスさんに企画を持ち込み参加への快諾をもらいました。

高橋 最初は和田さんと懇意にさせていただいていた私の上司にお話をいただき、その後に私が現場担当のプロデューサーとなりました。オリジナルタイトルにもかかわらず、打ち合わせ前に小説を読むという経験ははじめてでしたね(笑)。ただ目を通してみると、アニメを前提に書かれた小説ということで、映像が頭に思い浮かびやすく、複数の登場人物がそれぞれの目的や使命に向かっていくストーリーもTVアニメという連続もののフォーマットに合っていてすぐに興味を惹かれました。また、キャラクター原案をloundrawさんがされていることにご縁を感じました。loundrawさんは、小説「君の膵臓をたべたい」の挿絵をされていおり、私は劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」のプロデュースという立場で関わらせて頂きました。

和田 高橋プロデューサーには、本作のもう一つのテーマである「歌」を主導してもらっています。

高橋 『Vivy』は歌で皆を幸せにする歌姫型AIの少女を主人公にした作品です。音楽が作品世界を形作る上での重要な要素になるため、オープニングやエンディング、BGMや劇中歌まで含めて一人の作家が手がけるのが相応しいと考え、社内の音楽プロデューサーとも相談し、音楽は神前 暁さんにお願いしました。神前さんはSFというジャンルが持つ広がりを表現できる作家ですし、当然楽曲の引き出しもとても豊富です。『Vivy』の世界で鳴る音楽は、すべて神前さんにお任せするということにしました。
――ヴィヴィの劇中歌はキャストさんが歌うのでしょうか?
高橋 種﨑敦美さんが担当する声の芝居とは別に、ヴィヴィの歌唱は八木海莉さんというアーティストにお願いしています。今作は、声の芝居と歌の芝居、それぞれのプロに力を借り、アニメという動きの芝居を含め、3人の役者が一人のキャラクターを作ります。八木さんの歌声は、種﨑さんが演じたヴィヴィを保ちながら、キャラクターの新たな一面を引き出してくれました。まずはPVでOPテーマが使われているのでそちらを聴いてみてほしいです。
――最後に読者へ向けてメッセージをお願いします。
長月 『Vivy』にはAIものとしての面白さを詰め込みました。そういうジャンルがお好きな人はもちろん、AIものに触れるのがはじめて人にとっても、入口として最適な作品にできたと思います。皆さんの“好き”の気持ちに刺さるようなアニメを目指したので、ぜひ放送を楽しんでください。

梅原 僕たちの最大の目標はアニメを楽しんでもらうことですが、今後は長月さんと二人で書いた小説も発売されます。アニメの脚本作業は終わっていても、制作はまだまだ続きますし、これから作品をどんどん盛り上げていきたいので応援よろしくお願いします。

和田 梅原さんや長月さんをはじめ、多くのスタッフが参加して『Vivy』という物語が生まれました。小説とアニメではキャラクターや物語は大きく異なりますが、ゴールは変わらなかったんですね。長い制作期間を経て、多くの人たちと話し合って、そこに至る道筋はまったく違ったとしても、「『Vivy』のラストはここしかない」という結末にたどり着くことができたんです。そのラストまで、皆さんに見届けてもらえればうれしいです。

【了】